高い患者のニーズを受け、「睡眠障害」標榜が内科でも可能に
(2026年9月)
2026年6月1日から、医療機関が広告や看板に掲げられる診療科名に「睡眠障害」が加わりました。新たな診療科名が追加されるのは2008年以来のことで、実に18年ぶりとなります*1 。
診療科名に追加されたとはいえ、「睡眠障害」は単独では標榜できません。今回の改正は、3月の診療科名標榜部会(3回目)で、あくまで「組み合わせで標榜可能な診療科名に追加することは適当である」という結論を受けての結果です。*2
つまり、内科や精神科などと組み合わせて使う必要があり、今後は、「睡眠障害内科」「内科(睡眠障害)」「睡眠障害精神科」といった名称が使われることが想定されています。また「診療科名と組み合わせで用いることができるもの」の区分としては、感染症や糖尿病、アレルギー疾患などと同じ「患者の症状、疾患の名称」のグループに位置づけられました。
標榜診療科名として認められるには、独立した診療分野を形成していること、国民の求めが高い分野であることなどが条件とされており、国際的な疾病分類でも睡眠覚醒障害が神経疾患・精神疾患から独立した章として扱われるようになったことが、今回の追加を後押ししました。*3
今回の標榜追加のきっかけの一つが、日本睡眠学会が2025年4月30日付で厚生労働省に提出した要望書(*3 参照)です。
この要望書は、精神神経学会や呼吸器学会、神経学会、耳鼻咽喉科頭頸部外科学会、循環器学会、小児科学会の6学会名で出されました。
要望書に添えられた調査結果(2023年11月実施、18〜79歳の男女3587人が回答)では、58.4%(2,095人)が睡眠に何らかの課題を感じていると答えており、そのうち医師に診てもらいたいと思ったことがある人は521人(24.9%;男性27.4%、女性22.5%)で、そのうち実際に相談した人は295人(全体の14.1%)にとどまっていました。一方、睡眠に課題を感じ受診を考えたことがある人のうち、「睡眠障害科」があれば受診しようと思うと答えた人は全体で80.4%にのぼりました。同学会は、睡眠障害を診る科が精神科・呼吸器内科・耳鼻咽喉科・循環器内科・小児科など多岐にわたり、患者が「どこを受診してよいかわかりにくい状況」にあることが、受診に対して障壁を生んでいる点を課題に挙げています。
こうした議論が生まれた背景には、日本人の睡眠不足の実態があります。
OECDの2024年の報告によると、日本の平均睡眠時間は7時間42分で、調査対象33カ国のなかで最も短いという結果でした。2023年の「国民健康・栄養調査」でも、20歳以上の26.9%が「睡眠で休養が十分にとれていない」と回答しています。睡眠の不足や質の低下は、高血圧や糖尿病、心血管疾患、うつ病などの発症リスクとの関連が指摘されているほか、ヒューマンエラーによる重大事故との関連も指摘されてきました。*4
日本睡眠学会の内村直尚理事長は、「睡眠を犠牲にして働くことが頑張っている証しだという時代もあり、日本では睡眠が軽視されてきた」と指摘しています。*5
朝日新聞(2026年3月6日配信)は、睡眠不足は生産性の低下や事故リスクの増加を通じた経済損失にもつながり、米ランド研究所が2016年に発表した試算では、日本の損失額は約1380億ドル(約22兆円)で、国内総生産(GDP)に対する比率では調査国中最大の2.92%に達したと報じています。*5
こうした指摘を受け、食品業界でも睡眠の質をうたう商品の展開が進んでいます。花王は2026年7月21日、コーヒー豆由来のクロロゲン酸類を配合し、起床時の疲労感軽減を訴求する機能性表示食品「花王ライフケア研究所 THE SLEEP」を発売しました。*6
日本経済新聞の調べでは、全国のスーパーやドラッグストアなどのPOSデータ上で商品名に「睡眠」「快眠」を含む機能性表示食品は63商品にのぼり、2025年10月の時点で38商品の売り上げが確認できたということです。関連商品数は2022年の16商品から2023年には27商品に増えるなど、拡大が続いています。*7
薬に頼らず日常的に睡眠の質を高めたいという生活者のニーズが、食品分野にも広がっていることがうかがえます。
サプリメントでは効果が感じられない睡眠障害の患者は、これまでは症状に応じて内科、精神科、耳鼻咽喉科など複数の診療科を渡り歩いていました。しかし、「睡眠障害」の標榜が可能になったことで、内科など身近な医療機関でも患者が受診先を見つけやすくなるのではないでしょうか。
6月の「check!気になる医療ニュース」で紹介した不眠症治療用アプリの保険適用とあわせ、睡眠医療への患者アクセスは着実に広がりつつあります。
サプリメントなどセルフケア商品への関心の高さは、裏を返せば、医療機関を受診してよいものかどうか迷っている潜在患者が多いことの表れとも言えるでしょう。
先述の要望書(*3 )の最後に「今後標榜できる用語として「睡眠障害」 を加えることを検討する民間診療施設でも専門医の育成・認定を通じて、睡眠覚醒障害に関する幅広い知識・技術のさらなる普及がすすむことが期待されます」とあるように、標榜を検討する医療機関には、学会が進める研修やeラーニングを通じた知識の習得が求められかもしれません。
(ブランディングエディター:内田朋恵)
*1 朝日新聞「『睡眠障害』が新しい診療科名に追加 6月から組み合わせで使用可能」2026年6月1日
*2「睡眠障害の標榜について」厚生労働省医政局総務課、第8回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会資料1(令和8年3月6日)
*3 「標榜診療科名についての要望」参考資料3(2025年4月30日 日本睡眠学会提出資料)
*4「24時間社会における睡眠不足・睡眠障害による事故および健康被害の実態と根拠に基づく予防法開発に関する研究」内山真(厚生労働省国立精神・神経センター精神保健研究所精神生理部)等(2005)
*5 朝日新聞「寝ても疲れ取れない、いびきが大きい……睡眠不足の日本 経済損失も」2026年3月6日
*6 日本経済新聞「花王、機能性表示食品のサプリメント『花王ライフケア研究所 THE SLEEP』を発売」2026年7月21日
*7 「機能性表示食品のいま『免疫』から『腸活・腸内環境』そして『睡眠・快眠』へ」日経POS情報(日本経済新聞社)2025年11月28日