不眠障害治療アプリ「Medcle」保険適用は日本人の睡眠不足解消に役立つか?
(2026年6月)
2026年5月13日の厚生労働省中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、サスメド株式会社(東京都中央区)が製造販売する不眠障害治療支援アプリ「サスメド不眠障害用アプリMedcle(メドクル)」の保険適用が了承されました。不眠障害を対象とした治療用アプリとしては国内初となり、6月1日の保険収載および発売にむけて注目が集まっています。*1
この不眠症アプリを処方してもらうときの窓口負担(自己負担)は、3割の患者の場合、約7700円、これに初・再診料が別途かかると報道されています。*2
薬事日報によれば、「決定区分はC2(新機能・新技術)で、原価計算方式(有用性加算5%、加算係数1.0)が適用された。保険償還価格は2万4100円」ということです。*3
日本睡眠学会のホームページに掲載されている適用指針によると、「本品による治療は、7日間の睡眠衛生指導及び睡眠表の実施の後、8週間のCBT-Iと、週1回の不眠状態の検査であるアテネ不眠尺度(以下「AIS」という。) 及び目標就寝時間と目標起床時間の設定を行う」ということです。*4
つまり、9週間にわたりアプリが促す指示に従うことで不眠症状の改善が期待されるため、この費用は9週間のプログラム全体に対するものと考えられます。
このようにアプリによるデジタル治療が保険適用されましたが、対面式の不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)についても変更点があります。
今回の診療報酬改定で精神医療が「重点的な対応が求められる分野」に取り上げられた結果、医師、看護師、公認心理師による「認知療法・認知行動療法」の対象疾患に不眠症が加わり、認知行動療法については8回に限り算定できるようになったのです。*5
日本睡眠学会が発行する「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)マニュアル」では、「このマニュアルを用いることで慢性不眠症患者さんの 7 割が改善に至っており,CBT-I 実施前に睡眠薬服用中だった患者さんの 8割が,終了時に睡眠薬減量(初診時より半減),そのうちの4割が服薬中止に成功しています」*6 と明記されており、このアプリと認知行動療法を併用した治療には、大変期待が持てます。
実際、秋田大の三島和夫教授(精神科学)も「軽症から中等症の患者はアプリを含む認知行動療法が第1選択となり得る」と日本経済新聞の取材にコメントしています。同報道によると、欧州や米国の診療ガイドラインでは、認知行動療法を最初に選ぶ治療(第1選択)に位置づけているのに対して、日本ではいまだに薬物治療の優先順位が高いということで、三島教授によると「医療機関から処方された睡眠薬を服用する患者は約500万人にのぼり、睡眠薬はふらつきや転倒などの副作用のほか、飲み合わせに注意を要する薬が多いといった課題がある」*7 と指摘しています。
さて不眠症に悩む高齢者は多いですが、このアプリは高齢者にとって吉報となるでしょうか。
日本睡眠学会が発行する「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ 適正使用指針」では、以下のような高齢者に関する重要な注意事項が明記されています。
「睡眠制限法による眠気や疲労の増加、精神運動能力の低下が報告されており、運転業務や危険作業に従事する患者では注意を要する。眠気を伴う薬剤(抗ヒスタミン薬、β遮断薬、または鎮静性抗うつ薬など)によりリスクが増大する可能性がある。高齢者、睡眠薬を服用している患者、身体障害者では刺激制御療法により離床した際に転倒リスクがある」「本アプリを適切に使用するためには、患者が十分な認知機能及びIT リテラシーを有することが必要である」(*4 の8ページ参照)
つまり高齢者の場合、スマートフォンの操作に不慣れであったり、認知機能の低下があったりする場合には、アプリの使用は難しい可能性があるのです。
厚労省のホームページにも「不眠症は国民病」とあり、「一般成人の30〜40%が何らかの不眠症状を有しており、女性に多いことが知られています。不眠症状のある方のうち、慢性不眠症は成人の約10%に見られ、その原因はストレス、精神疾患、神経疾患、アルコール、薬剤の副作用など多岐にわたります。加齢とともに不眠症状は増加し、60歳以上では半数以上の方で認められます」と明記されています。*8
このように高齢者の不眠症の有病率は高いですが高齢者のアプリ使用のハードルも高いため、この層への対応が今後の課題となります。
とはいえ薬物療法が中心の日本の不眠症治療にとって、今回のアプリの保険適用は、非薬物療法への道を開く一歩として評価できるのではないでしょうか。
(ブランディングエディター:内田朋恵)
*1 「医療機器の保険適用について」厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第650回)資料3-1-1 令和8年5月13日
*2 日本経済新聞「治療アプリ2製品を6月に保険適用へ 不眠症と小児のADHD向け」2026年5月13日
*3 薬事日報「【中医協総会】医療機器7品目の保険適用を了承‐不眠障害用アプリなど」2026年5月15日
*4「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ 適正使用指針」日本睡眠学会ホームページより(2024年3月15日)
*5「令和8年度診療報酬改定11. 重点的な対応が求められる分野(精神医療)」P17
*6「不眠の認知行動療法実践マニュアル :治療者ガイド」監修:日本睡眠学会教育委員会
*7 日本経済新聞「サスメドの不眠症治療アプリ、保険適用へ前進 厚労省調査会が承認変更を大筋了承」2025年7月28日
*8「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」厚生労働省より