押さえておきたい「科学的根拠に基づくがん予防法5+1」改訂のポイント
(2026年7月)
2026年6月3日、国立がん研究センターは「科学的根拠に基づくがん予防法5+1」を改訂し、内容を一新したウェブページ*1 と冊子第3版*2 を公開しました。
これは、同センターを中心とした研究班「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」(班長:和田恵子)が、日本人の最新のエビデンスに基づいて、がんのリスク要因を継続的に評価し、予防法について更新したものです。
「気になる医療ニュース」では、かかりつけ医にとって押さえておきたい改訂ポイントについて、感染対策とがん検診の具体策も含めて整理したいと思います。
今回の一番の改定点は「お酒」についてです。
世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、飲酒を「ヒトに対して発がん性がある」としました。少量の飲酒でもがんのリスクが上昇することが示された*3 ため、「節酒する」から「飲酒をひかえる」へと推奨対策が変更されました。
「日本人男性を対象とした研究では、1日あたりの純エタノール摂取量が23g未満の人に比べ、46g以上の人は40%程度、69g以上の人は60%程度、がんになるリスクが高くなりました。この結果から、日本人男性のがんの約13%が1日2合以上の飲酒習慣によりもたらされているものと考えられます。女性は男性より体質的に飲酒の影響を受けやすく、より少ない量でがんになるリスクが高くなるという報告もあります。」*4 とがん情報サービスのサイトに記されています。
これまでの「適量なら問題ない」という説明はもはや支持されないといっていいでしょう。
さらに体重についても、BMIが高くなるほど段階的にリスクが上昇するがんがあることを踏まえて、男性のBMI推奨上限が27から25に引き下げられ、男女ともに「BMI21〜25」の範囲に統一されました。
「BMI値が高くなるにつれて、乳がん(閉経後)と肝がんのリスクは確実に増加することが、大腸がんと子宮内膜がんのリスクはほぼ確実に増加することが報告されています。」*4と先のサイトにも明記されました。
これにより、これまで「まだ大丈夫」だった男性患者の一部が、指導対象に変わることになります。
がん情報サービスのサイトでは、食生活について、減塩や野菜と果物の摂取の推奨、熱い食べ物や飲み物が与えるリスクなどについても言及されています。胃がんは、「塩分の多い食事を多くとることは、男女ともにほぼ確実に増加する」という結果が出ているので、日頃から減塩を意識した食生活の大切さを患者さんに伝えていきたいものです。
そして、喫煙です。喫煙は男性の最も多いがんの要因であり、女性でも2番目に多いとされます。吸う人は吸わない人に比べ何らかのがんになるリスクが約1.5倍高いと報告されています。エビデンスがこれだけ明らかなのですから、喫煙する患者さんには、その危険性と禁煙治療の可能性についても説明できるようにしておきましょう。
がん情報サービスのサイトによると、日本人男性の43.4%、女性の25.3%が、生活習慣や感染が要因でがんになったと推計されています(Inoue M, et al. Burden of cancer attributable to modifiable factors in Japan in 2015. Glob Health Med. 2022; 4(1): 26-36. より)。このサイトでは、「たばこ」「お酒」「食生活」「身体活動」「体重」の5つの要因に気をつけて生活している人とそうでない人で、将来がんになるリスクの差を紹介していますが、男女ともにがんの4割前後は予防可能という調査結果は、患者さんへの説明でも説得力を持つ数字ではないでしょうか。
「感染」対策とがん検診こそ、かかりつけ医の出番
がんの要因として女性で最多、男性で2番目に多いのが「感染」です。検査・ワクチン・治療という医療的介入が直接効果を持つ唯一の項目であり、ここはかかりつけ医として、患者さんへの説明に注力していただきたいところです。
肝炎ウイルスと肝がん、ビロリ菌と胃がん、ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんとの関係は、すでに周知の事実です。
B型肝炎ワクチンは生後2〜8カ月の乳児を対象に定期接種として公費実施されていますので、未検査の成人には一度の受検を勧めてみてもいいでしょう。
ピロリ菌については、近頃は会社の健康診断でもオプション検査項目に入っているので、定期的な胃がん検診とともに、機会があれば検査を受けることを勧めてみましょう。
日本では、接種がなかなか進まなかったHPVワクチンですが、HPV(ヒトパピローマウイルス)は実は女性にも男性にも関係します。女性の子宮頸がんの原因であることは知られていますが、近年は、男性の肛門がんや尖圭コンジローマの原因としても知られるようになりました。
女性は小6〜高1相当が定期接種として公費対象ですが、男性への接種は定期接種でないため全額自己負担となり、3回接種で4価ワクチンは5〜6万円程度、9価ワクチンは8〜9万円程度かかるのが現状です。背景には厚生科学審議会ワクチン評価に関する小委員会での継続審議があり、4価ワクチン3回接種の有効性・安全性は一定程度確認されたものの、費用対効果については引き続き議論が必要とされました。*5 患者さんが相談に来た時には、丁寧な説明ができるよう、準備しておきたいワクチンといえます。
最後に、がん検診について触れておきます。
厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」*6 によれば、肺がん検診・大腸がん検診は40歳以上、乳がん検診は40歳以上、子宮頸がん検診は20歳以上が対象となっています。受診間隔は、胃がん検診・子宮頸がん検診・乳がん検診が原則2年に1回、大腸がん検診・肺がん検診が年1回とされています。*7
会社員ならば、健康診断を受けさせられますが、扶養されている人や国民健康保険の人は自分で申し込まなければ健康診断を受けられません。ですからかかりつけ医として、「健診は受けていますか?」と聞くことも、患者さんの健康を守るためには重要なことです。
そして、万が一にも精密検査が必要と健診で判定された場合には、精密検査の重要性について患者さんに話していただきたいと思います。
厚生労働省の地域保健・健康増進事業報告*8 によれば、「がんの疑いあり(要精密検査)」と判定された人のうち実際にがんが見つかった割合は、胃がんで1.86%、大腸がんで2.87%、肺がんで1.87%、乳がんで4.60%、子宮頸がんで1.25%でした。数字だけをみれば、精密検査でのがん発見率自体は高くありませんが、「症状がないから」「健康だから」と精密検査を受けなければ、がんが進行してから見つかるリスクが残ります。要精検の通知は、患者さんには「異常を見つけるための入り口ですよ」と説明することが、受診率向上につながるのではないでしょうか。
今回の改訂内容のすべてを説明する必要はありませんが、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などの生活習慣指導の場面で、「これはがん予防にもつながります」と一言添えるだけでも大きな意味があります。
例えば、「お酒はひかえる」「男性BMI上限は25」「男性もHPVワクチンを任意接種できる」「検診は年齢と頻度を守って継続を」という4点について、診療所内に掲示しておくのもいいでしょう。気になる患者さんには、日々の診療の最後に一言加えるなど、工夫をしてがん予防に努めていただきたと思います。
(ブランディングエディター:内田朋恵)
*1「『科学的根拠に基づくがん予防法5+1』をより伝わりやすく刷新」(国立がん研究センター プレスリリース2026年6月3日)
*2「科学的根拠に基づくがん予防法5+1」国立がん研究センター
*3「飲酒とがんについて ― 科学的エビデンスを踏まえた理解のために」日本癌学会プレスリリース(令和8年2月9日)
*4「科学的根拠に基づくがん予防法」がん情報サービスHP
*5「HPVワクチンの男性への接種について」第31回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会 資料3-1(2025(令和7)年9月25日)
*6「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」厚生労働省
*7厚生労働省HP「がん検診」
*8「地域保健・健康増進事業報告 健康増進編」6がん検診より(16頁)(厚生労働省・令和元年度)