高市政権発足で、2026年度診療報酬改定はどうなる?
(2025年11月)
2026年度診療報酬改定に向けての話し合いが進んでいますが、10月24日に行われた高市新政権の所信表明演説で、今後の「社会保障抑制」が明確になったといえます。
新政権下では石破政権時に凍結された「高額療養費制度の患者負担増」も改めて蒸し返される気配がしていますが、「現役世代の保険料負担を抑える」を旗印に、医療費抑制が進められるかもしれません。
その所信表明演説の前日の23日、社会保障審議会医療保険部会が開かれ、2026年度の診療報酬改定の基本方針に盛り込む重点課題として、「物価や賃金、人手不足などの医療機関等を取り巻く環境の変化への対応」が取り上げることがおおむね了承されました。
すでにこれまでの部会で、「日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金の上昇、人口構造の変化や人口減少の中での人材確保、現役世代の負担の抑制努力の必要性」「2040年頃を見据えた、全ての地域・世代の患者が適切に医療を受けることが可能かつ、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制の構築」「医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進等による、安心・安全で質の高い医療の実現」「社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和」を診療報酬改定の際の基本認識とすることについて厚生労働省から提案されています。
この基本認識に沿って23日の部会ではさらに、「基本的視点・具体的方向性」として、次の4つの視点が提示されました。*1
視点1:物価や賃金、人手不足などの医療機関等を取りまく環境の変化への対応
視点2:2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進
視点3:安心・安全で質の高い医療の推進
視点4:効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
厚労省からは、4つの視点のうち、視点1「物価や賃金、人手不足などの医療機関等を取りまく環境の変化への対応」を重点課題とすることが提案されました。
その背景として、「持続的な物価高騰により、事業収益の増加以上に、人件費、委託費や医療材料費等といった物件費の事業費用が増加しており、事業利益が悪化している状況、また、2年連続5%を上回る賃上げ率であった春闘などにより、全産業において賃上げ率が高水準となっている中、医療分野はこれに届いておらず、人材確保も難しい状況にあり、医療分野は厳しい状況に直面している」ことが挙げられています。
配布の資料には、こうした現状への解決の具体的方向性として、「医療機関等が直面する人件費、委託費や医療材料費等といった物件費の高騰を踏まえた対応」やICT 、AI、IoT等を活用した業務効率化やタスクシェアの推進など「賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による医療従事者の人材確保に向けた取組」が明記されています。
この提案に対して歓迎する意見が上がった診療側に対して、支払い側の委員からは、4つの視点はいずれも重要なテーマでありどれか一つを重点課題とすべきではない、とか、一律ではなく各医療機関の実情を踏まえながら対応していく旨を視点1に盛り込むべき、とか、今回の改定が経営改善や賃上げに確実に結びつくのか検証が不可欠、などといった意見も出されており、厚労省の提案はおおむね了承はされましたが、支払い側と診療側の間にはかなり温度差があると感じられます。
この日の社会保障審議会医療保険部会では、同時に「世代内、世代間の公平の更なる確保による全世代型社会保障の構築の推進」*2 についても議論されており、今後、「現役世代の保険料負担を抑える」ことを明確に宣言している高市政権がどのように診療報酬改定にかかわってくるのか、進展を見守りたいと思います。
※WEB情報の最終閲覧日は2025年10月26日です。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*1 「令和8年度診療報酬改定の基本方針について(基本認識、基本的視点、具体的方向性②)」令和7年10月23日 第201回社会保障審議会医療保険部会 資料3
*2「世代内、世代間の公平の更なる確保による全世代型社会保障 の構築の推進」令和7年10月23日 第201回社会保障審議会医療保険部会 資料2