65歳以上のいる世帯が50%を超えた超高齢化社会ではフレイル予防が重要
(2025年8月)
2025年7月4日、厚生労働省が2024年の「国民生活基礎調査の概況」*1 を公表しました。
これによると、全国の世帯総数5482万5000世帯のうち、65歳以上の人のいる世帯は2760万4000世帯で全世帯の50.3%になることがわかりました。世帯構造をみると、65歳以上の人の「単独世帯」が903万1000世帯で65歳以上のいる世帯の32.7%にもなります。
これは一人暮らしの高齢者が増えていることを表しており、医療、介護、福祉の高齢者対策である「地域包括ケアシステム」の構築が急務であることの証左です。
特に65歳以上の女性の単独世帯率は64%と高く、そのうち80歳以上女性の単独世帯は46.9%と約半数にのぼります。
こうしたなかで東京都健康長寿医療センターがおもしろい調査結果*2 を発表しました。
これまでも介護予防のためには高齢者の社会・地域活動参加が極めて重要であることは理解されていましたが、とはいえ社会参加に及び腰な人は、いくらインセンティブをつけても参加につながらないことも明らかになっています。
どうすれば社会参加につながるか。
そこで、新潟県十日町市下条地区と山形県川西町吉島地区に住む65歳以上の高齢者1524人を対象に、ランダムに社会参加活動に関する以下の4つの異なるメッセージを読んでもらったうえで、参加への態度や意欲を尋ねるという調査をしました。
(1)個人利得メッセージ
「あなたが社会参加活動をすることで、やりたい事が継続でき、自己負担の医療介護費が抑制されます」
(2)個人損失メッセージ
「あなたが社会参加活動をしなければ、やりたい事を諦めることになり、自己負担の医療介護費が高くつきます」
(3)地域利得メッセージ
「あなたが社会参加活動をすることで、地区に住む人同士のつながりや絆が強まり、皆が元気に安心して住み続けられるようになります」
(4)対照群(メッセージなし)
調査対象者の社会参加活動を行っている人と行っていない人の数は半数ずつでしたが、社会参加活動を行っていない人の結果は、注目すべきものとなりました。
4つのメッセージのうち、(2)の個人損失のメッセージを読んだ人は、ほかのメッセージを読んだグループに対して、社会参加活動への関心が1.96倍、社会参加活動の開始意向が1.74倍、社会参加活動への印象が1.56倍高まったのです。
つまり、「健康にいいからやりましょう」「地域のためになるからやりましょう」というメッセージよりも、「参加しないとリスクがある」ということを強調したほうが、「関心や行動意欲の向上に有効である」ということが示されたのです。
健康に対するメッセージの伝え方については、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が、自身が推進する「フレイル予防活動」について面白い提言を出しています。*3
飯島教授のグループは、全国の自治体で住民参加型のフレイル予防の取り組みを行っています。*4
この活動のポイントは、高齢者のフレイル予防への気づきと自分事化を促すための地域活動「栄養(食・口腔機能)、運動、社会参加の包括的フレイルチェック」を行うのは、保健師や看護師ではなく、高齢住民である「フレイルサポーター」であることです。
飯島教授は、保健師にああしろ、こうしろと指導されると高齢者は活動に参加してくれなくなるが、住民仲間であるフレイルサポーターに誘われると、気軽に活動に参加してくれるようになると説明しています。
飯島教授のグループは「フレイル予防マニュアル」*5 を作り、全国の自治体に参加を呼びかけた結果、このフレイル予防活動に参加する自治体は年々増加して、2023年現在、全国103自治体に住民主体のフレイルチェックプログラムが導入されています。
単身高齢世帯の増加は、多世代交流の低下を意味します。
「多世代交流には、見えない力があると思います。かつては三世代が一つ屋根の下で暮らしていましたが、核家族化によって、孫は普段から会える間柄ではなくなりました。地元の大学生や小中高生などと触れ合う機会は、高齢者に新鮮味と、いつもと違ったエネルギーを与えてくれるでしょう」*6と飯島教授も言います。
超高齢化社会を迎え地域包括ケアシステムの構築が急がれるなか、地域のクリニック、かかりつけ医として地域活動やフレイルチェック活動に参加していくことは、今後ますます重要になってくるでしょう。
※WEB情報の最終閲覧日は2025年7月27日です。
(文責:ブランディング・エディター 内田朋恵)
*1「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」令和7年7月4日(政策統括官付参事官付世帯統計室)
*2「高齢者の社会参加を促すには「得より損」:ナッジを活用したメッセージで社会参加活動の関心が 2 倍に」令和7年7月9日(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
*3 「フレイル予防を軸とした健康⻑寿・幸福⻑寿まちづくりの実現に向けた提⾔」2024年2月19日(東京大学未来ビジョン研究センター)
*4 「フレイル予防」(東京大学高齢社会総合研究機構HP)
*5「フレイル予防を軸とする住民主体活動推進マニュアル」(東京大学・未来ビジョン研究センター/高齢社会総合研究機構)
*6「フレイル予防のポイント 大切な三つの柱は?…東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢教授に聞く」2024年4月18日(yomiDr.)