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人手不足に打ち勝つ開業医サバイバル2026
~AIの上手な活用と『1.5人体制』~

昨今のクリニックの人手不足は、たいへん深刻な状況です。
どのように人材不足を解消するかという視点から開業医のサバイバル術を考えます。

EPISODE 01

統計が示す「採用難」のリアルとコスト上昇

クリニックは慢性の人手不足

「人が来ない、来ても続かない、また人を探す」。
こう語る開業医は、いまや珍しくないでしょう。ハローワークに求人票を出しておけば、一定数の応募があった――そんな時代はとっくに終わっています。
2026年4月、医師向け情報サイト「m3.com」が実施した大規模な医師意識調査では、診療所開業医の75.4%が「事務職員の不足」を*1、75.2%が「看護師の不足」を感じていると回答しています。*1

約4人に3人の開業医が、事務職員、看護師の両方に不足感を抱えているという数字は、もはや一部の地方や特定の診療科の問題ではなく、クリニック経営全体に広がった構造的な課題であることを示していると思われます。
それなら紹介会社や派遣会社を使えばいいじゃないか、と思われるでしょうが、そこには紹介手数料という、もう一つの問題が待ち受けています。

厚生労働省が2025年12月に公表した「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」*2    によれば、民間の職業紹介会社を通じた採用における看護師の平均手数料率実績は21.6%、医師は22%、介護職では20.2%となっています。

仮に年収400万円の看護師を紹介会社経由で採用すれば、それだけで80万円超の手数料が発生する計算になります。大病院や企業ならば許容範囲かもしれませんが、個人クリニックには、文字通り経営を直撃する出費です。

しかも、同資料によれば、看護師の就職後6カ月以内の平均離職率は10.5%にのぼると指摘されています。高額の手数料を払ったにもかかわらず、採用した人が半年以内に辞めてしまうリスクが、10人に1人の割合で起こるのです。

有料職業紹介と離職リスクについては、2026年3月に日本医師会・四病院団体協議会による「有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書」*3    も出ています。やはり厚労省の資料を裏付けるように、医師の平均手数料率が22.7%、看護師は平均20.1%であることが東京都病院協会の調査データとして示されており、非常に高額だと指摘されています。

また、2023年度の看護職の紹介手数料総額は約579.9億円に達しており、2019年度の約378.7億円から大幅に増加しています。さらに三菱UFJリサーチ&コンサルタントの調査によれば、医療・介護・保育3分野では紹介された人材がすぐ離職してしまうというトラブルが56.8%と、3分野以外の16.5%を大きく上回っています。 もし離職されれば、また紹介料を払って採用しなければならないわけで、悪循環に陥っている現状がデータからも垣間見れます。

埋められない賃金格差という問題

こうした「採用コスト」の問題が起こる仕組みを理解するために、ここで有効求人倍率について触れたいと思います。
厚生労働省「一般職業紹介状況」*4 によれば、医療事務や看護師などの職種は、全産業平均(約1.1倍台)を大きく上回る有効求人倍率(2倍〜3倍以上)で推移しており、他産業への人材流出も指摘されています。つまり、求職者が複数の求人を選べる立場にあり、クリニック側は常に「選ばれる側」に置かれているのです。
なぜこれほど採用難が深刻化しているのかといえば、その背景には「賃金の格差」という構造的な問題があります。

診療報酬による賃上げ支援策(いわゆるベースアップ評価料)は、算定できる金額がスタッフ数に比例するため、スケールメリットの大きい大規模病院のほうが恩恵を受けやすい設計になっています。同じ「看護師」という職種でも、大病院とクリニックとでは給与水準の差が開きつつあるのが実態です。

加えて、訪問看護ステーションへの人材流出も見逃せないところです。在宅医療の需要拡大を背景に、訪問看護の現場では裁量権の大きさ(つまり、やりがい)とともに、クリニック外来よりも高い給与水準が設定されているケースが多く、やりがいと報酬の両面でクリニックは競争上の不利を抱えているといえるでしょう。

事務スタッフの採用難は、さらに複合的な要因が絡み合っている。
医療DXの進展により、クリニックの受付業務はかつてとは別物になりました。マイナ保険証の運用、電子処方箋への対応、オンライン資格確認システムの管理など、一定のITリテラシーが不可欠となっていて、「未経験でも大丈夫」という求人票の文言が通用する時代ではなくなりました。かつては「子育て中の主婦に人気の仕事」だった医療事務のポジションは、業務の高度化によってハードルが上がり、応募者数が減少傾向にあります。

そして、スタッフの給与を引き上げるためには「ベースアップ評価料」の算定が必要になりますが、その申請手続きや書類管理を担う事務スタッフがそもそも不足しているため、制度を活用したくてもできないクリニックが続出しているのです。「賃上げのための手続きをする人手がいない」とは、何とも皮肉です。

つまり、求人媒体の変化、労働市場の構造変化、医療DX政策の副作用、そして大規模病院との給与格差という複数の要因が同時並行で進行した結果として、いまの採用難があるといえます。
かつての「医師1人・看護師2人・事務2人」という標準的なクリニックの開業モデルは、前提としていた採用環境がすでに失われており、現在ではそのモデルを維持すること自体が困難になっているのです。

これは個々のクリニックの問題というよりも、診療報酬を含めた日本の医療提供体制が直面している構造的な課題ではないでしょうか。
この現実を受け入れたうえで、これからのクリニック経営はどうしていけばいいのか、次回以降、具体的な対応策を検討していきます。

(文責:ブランディングエディター 内田朋恵)


参考文献
*1 「医師の意識調査」(m3.com 2026年4月)より。
  Vol.2 看護師不足「感じる」病院経営層の87.5%(2026年4月5日公開)

  Vol.3 事務職等の不足、病院経営層の85.6%が「感じる」(2026年4月10日公開)

*2 「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」(厚生労働省)

*3  「有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書」日本医師会・四病院団体協議会(2026年3月)

*4 「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」厚生労働省HP

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